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22th『ワタシ』。

私の世界はとてもとても暗く卑しく構成されています。どこまでも暗く闇ばかりです。 助けを求めると苛められます。苛められるのは辛いです。辛いのは悲しくて泣いてしまいます。泣いてしまうと苛められるのでいつまでも終わりません。 助けて!と叫ぶと叫び…

21th『人差し指』。

目が覚める。ベッドの脇に置いた携帯電話を探して、時間を見れば、まだ朝の五時だった。 もう少し寝ておこうと思って枕に後頭部をうずめて布団をかけ直した。持ち上げた布団のスペースから、かけ直したときに出来た風が顔に当たる。 二十センチの距離もなく…

20th『最低な始まり<愛の終わり>』。

俺は今ちょっとばかり厄介なことに巻き込まれている。 最初は嘘だと思っていた。きっかけは今となっては見当もつかない。あんな女なんて御免だ。 何度追い返しても、何度断っても、何度拒絶してもあいつは諦めようともしない。 初めは俺がきっぱりと断り続け…

19th『愛の終わり<最低な始まり>』。

貴方は私がどんなに愛しても振り向いてくれなかった。 私の愛が足りなかったから? 私の愛が強すぎて貴方が臆してしまったから? 私が貴方のタイプじゃなかったから? クエスチョンマークをいくつ考えてみてもわからない。わかるはずがない。 貴方の気持ちは…

18th『存在理由』。

人は、死に向かって生きている。 どうしようもないくらいに決定付けられた遺伝子レヴェルの運命。 今、この瞬間の一分、一秒から、蝋燭はじわじわと短くなっている。 なんで死ぬ、と決定しているのに生まれてくるの? みんな結局死んじゃうんだから意味ない…

17th『オモイビト』。

一月三日午後八時。酔いに任せて二度目の電話。 一度目、貴女は入浴中。二度目の電話で繋がった。 一年ぶりに聞く声はあの頃とちっとも変わらずに。 出会った頃の貴女は、周りから少し嫌われていた。 ほんの些細なきっかけで、そんな貴女に惹かれてた。それ…

16th『自己紹介』。

あー、皆様初めまして。ワタクシ、鈴山虎太郎と申します。 鈴に山、トラの虎に在り来たりな太郎で鈴山虎太郎でございます。 性格は超絶的なマイナス思考であります。こうやっている間も心底ガタガタブルブル、ビクビクオドオドです。 もうこんな所から抜け出…

15th 。『空色』

空色に白が溶ける。淡く、緩やかに、滲み、消える。 透き通った空色は淡い白と同化して薄くなる。 薄くなった空色は空色と同化して元の空色に近くなる。 はっきりした白は少しずつ風に流されて消えて逝く。 静かにゆっくりと。でも、時間をかけて確実に。 消…

14th「涙、咲き乱れ」。

ささやかで。さり気なく。小さいけれど、そんな積み重ねが幸せで。 彼と二日に一回くらいのペースで逢って。駅から夕食を食べに手を繋いで歩いて。 その日にあった他愛もないことを笑いながら話したり。その日にあった嫌なことを彼にこぼしたり。 逢えなくて…

13th「不完全を求める」1。

俺がその子と初めて会ったのはまだ5月になったばかりだというのに夏のように暑い嫌な日だった。 俺は特に何をするでもなく出かけ、特に何をするでもなく家から少し離れた所にある河原でただ時間を過ごしていた。 ただそこにいるのが一番何もできなかった。 …

12th。

キミは世界が何でできていると思うかい? 昔から諸説色々あると思うが、俺には『愛』でできているとしか思えないんだよ。 一番わかりやすいのが人間の存在だ。 よく言うだろう?子供は『愛の結晶』だ、と。 その通りだ。子供だった俺達はみんな愛の結晶なん…

11th「友情無情」。

キミは唐突に訊く。 「あのさ…あたし達って友達かな?親友かな?」 「え?そんなこと言わなくても分かってることなんじゃないの?」 「そう…だよね。うん、うんうん。何言ってんだろ、あたしってば。はは」 「ま、そんなこと『これから』に関しちゃなーんも…

10th。

俺はあの女と出逢ってしまってから変わった。 それが運命という名の必然なのか、一目惚れという名の偶然なのかは知らない。別に知らなくてもいいことだ。どちらにしたって同じなのだから。 『言葉』という代物では言い表すことのできることができない程に魅…

9th「逃亡者」。

俺は逃げる。ただただ逃げる。一目散に逃げる。無我夢中に。死に物狂いで。 男から。女から。動物から。車から。時間から。何もかもから。逃げられるものなら何もかもに。 いつから逃げているのだろうか。逃げている理由など疾うの昔に忘れてしまった。 否、…

8th「消滅意義 3」。

彼はあたしの驚いた顔を楽しげに笑って見ていた。 「ボクの瞳の色に驚いたかい?──まぁ、そんなことはどうでもいい。そんなことよりボクの近くに来るんだ。」 『どうでもいい』と言われたのでは追及しようもないし、それ以上のことでもないので、言われたと…

7th「消滅意義 2」。

彼は紳士的に扉を開けて、レディ・ファーストであたしを先に入れてくれようとした。 でも、あたしは中に入る直前で立ち止まってしまった。 理由はわからない。ただ中が暗かったからなのか、胡散臭いとここまで来ておいて思ったからなのかは。 「大丈夫だ。キ…

6th「消滅意義 1」。

人が右へ左へ、あたしの目の前を通り過ぎていく。 誰もあたしを知らない。あたしも誰も知らない。そして、誰にも興味などない。 なぜならこの世界に興味がないから──だからこんな世界は消えて欲しい。 でも、それは叶わないこと。 だったらあたし自身が消え…

5th。

「きゃっ。」 私は慌ててスカートのすそを押さえた。 風の強い日ってほんと嫌になる。スカートだと面倒だし。目にゴミは入るし。 春一番、ってやつなのかしら?別にそんなのなくていいのに。 スカートを気にしながらゆっくりと桜並木を歩いた。 ──今日から新…

4th。

雨が降っていた。いつから降り続いていたのか分からない。 意識したとき、「空」というものはなかった。 見上げれば「雨」。見上げれば「雲」。聞こえる音は「雨音」と「雷」だけ。 「青い空」。「白い雲」。そんなものは小説の中でしか見たことがなかった。…

3rd。

─ダンッ!ダンダンッ!!ダンダンダンッッ!!! 扉を叩く音が次第に強くなっていく。 (チィッ!やっぱ逃げられんのもここまでかぁ。) ─ダンダンダンダンッッッ!!!! (めんどくせぇなぁ。どうにかなんないものかねぇ…。) 男は逃げていた。ただ逃げることだけが…

2nd「甘い爪痕」。

「ねぇ。ねぇ…ねぇってば!ねぇねぇ!」 「んぁ?なんだよ…うるさいなぁ。」 「ほら、今日新しい口紅つけてみたのー。どう?どうどう?」 「ふーん…。」 「なによー、それー。もっとちゃんとした受け答えとかないのー!?」 「じゃあ、なんだよ。こうすりゃい…

1st。

姉さんが死んだ。 今までずっとそばにいるのが当たり前だった。 そんな人間がこの世から消えてしまった。 姉さんは強い人だった。 体は生まれつき弱かったけれども心がしっかりとした強い人だった。 僕が泣いて帰ってきた日も、姉さんの誕生日にぬいぐるみを…