18th『存在理由』。

人は、死に向かって生きている。
どうしようもないくらいに決定付けられた遺伝子レヴェルの運命。
今、この瞬間の一分、一秒から、蝋燭はじわじわと短くなっている。
なんで死ぬ、と決定しているのに生まれてくるの?
みんな結局死んじゃうんだから意味ないじゃない。
あたしは死ぬために生まれてきたんじゃない!
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小さい頃は無邪気で何にも知らず、生命に終わりがあるなんてわからなかった。
この一瞬が、今が楽しくて仕方がなくて、泣いても怒られても、次の日にはまた新しい楽しいことが待っていた。
新しい経験をすることが嬉しくて嬉しくて、もっともっと知りたいと思っていた。
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可愛がっていた飼い犬が車に轢かれて死んでしまった時、初めてあたしは死という存在に気がついた。
こんなに悲しいことがあるなんて思えないほどに哀しくて悲しかった。
泣いても泣いても悲しさは消えない。
死が憎かった。死さえなければこんな気持ちになんてならないのに。死があるからこんな気持ちになる。
死が嫌い。
死が憎い。
死を消したい。
どんなに思っても、どんなに方法を探しても、どんなに願っても、それが叶わないと知ってしまった。
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知ってしまってからあたしは変わった。
生きていく希望をなくしたからだ。
極端過ぎる、と多くの人々は言う。
…極端だからナニ?
まだ人生は長いんだから希望を持ちなさい、と先生が言った。
…でも、結局死ぬんでしょ?先生も死ぬのよ?
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ふと、あたしの中のどこかで人は何をするために生まれてきたのかと言うことを疑問に思った。
死ぬため?
だったら哀しすぎる。
運命に失望し、人生に絶望していたのに、なぜか疑問を感じてからはどうしようもない運命に逆らいたくなった。
「疑問を晴らしてどうするの?結局変わらないかもしれないのに。」
…知りたいことを知りたいの。だから、結果なんて構わない。
「結果を構わなくても結果はあるのよ。結果を知ってどうしたいの?」
…その時はその時。知ったらあたしが生きる意味もなくなっちゃうかもね。
―――――
遺伝子レヴェルの運命に逆らうと言うことは、あたしの存在理由を否定していることなのかもしれない。
生命は子孫を残していくけれど、それだってただの二重螺旋を新しく増やしていく作業なだけ。
ヒトは『愛の営み』なんて言うキレイでイヤラシイことをして、キモチヨクなって、『愛の結晶』と言うモノを作り続けるだけ。
あたしだってそのうちは『愛の営み』をする『お母さん』に成り下がるのかもしれない。
成り下がる、と思うのは今だけで、実際にこの体に命を増やしたらこんな考えを吹き飛ばして『優しいお母さん』になっているのかもしれない。
それはそれでいいのかもしれない。
でも、今だけは運命に逆らって『意味』を知りたい。
それが今のあたしの存在理由だと思いたい。
昔の哲学者もこんな気持ちだったのかな、なんて思うと口元が緩くなった。
あたしはあたしのために、あたしであることの意味を知ろう!
それがどんなに背徳的で、どんなに無意味で、どんなに悲しいことを知ったとしても後悔はしない。
そう決めた。
決意したその晩はぐっすりと眠れた。
朝はとても明るく希望とに満ち溢れすっきりとしていた。
知ったときはどうしようかな、と思うとわくわくしてきてどうしようもなかった。
全てを悟ったら踏切から飛び込むのもいいかもね。
あたしが吹き飛ぶなんて、とっても素敵、なーんてね。
今日から素敵な日々が待っている。
だから、あたしは生きていける。

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まぁ、アレですね、最初は絶望方面にもって行くつもりが、たまには希望方面に行くのもいいかなぁ、と思ったのでこんな感じに。
『生まれた理由』というのは俺が小さい頃から思っていた疑問でして。
絶望しつつも、自堕落に意味もなく育ってきてしまっているので、今は日々食っていくのが精一杯ですな。
そのうち人生に絶望して死ぬ日も近いのかぁ、等と笑えない冗談を残しつつこの辺で。