4th。

雨が降っていた。いつから降り続いていたのか分からない。
意識したとき、「空」というものはなかった。
見上げれば「雨」。見上げれば「雲」。聞こえる音は「雨音」と「雷」だけ。
「青い空」。「白い雲」。そんなものは小説の中でしか見たことがなかった。
だから、「太陽」というものも見た覚えなどない。
別に自分に「太陽」などいらないと思っていた。
「太陽」なんて、なくても生きていける。「雨」と「黒い雲」があれば十分だ。そう思っていた。
───そう、あの娘に逢うまでは。
あの娘は雨の中、傘もささずに歩いていた。
僕は少し不思議に思った。いつもならそれでそのまま終わり。
だけれど、その時は「いつも」と違っていたらしい。
どこかが「いつも」と違っていた僕はその娘に近づいて傘をさした。
「傘もささないでどうしたんだい?」僕の口からは今まで言ったこともないような優しい言葉が出てきた。
それはその娘だったからなのか、ただのきまぐれなのかは分からない。
でも、そう言いたかったから言ったのだとは思う。
僕の言葉に対して彼女はただにっこりと微笑んでいるだけだった。
そして「私は空を感じているの。雨と、雷と、黒くて厚い雲の向こうにある空を。」と言った。
僕には彼女の言うことが分からなかった。いや、分からないはずだった。
何度も言うようだが、その時の僕は「いつも」と違っていたのだ。
気が付くと僕は傘を放り投げ、僕が声をかける前の彼女と同じように雨に打たれていた。
自分でも驚いた。でも、そんなことはもうどうでも良かった。
彼女と同じように空を感じていることの方が気持ち良かったからだ。
僕の体の隅々に落ちてくる雨粒。見上げれば、無数の雨粒が降ってくるのが分かる。
今、僕の体に落ちた雨粒は数秒前にはもっと空に近かった。
その数秒前にはもっともっと空に近かった。その数秒前にはもっともっともっと───。
「ほら、私達、今、空を感じているんだよ。」
「ああ。僕にも分かるよ。」
僕たちは手を繋いでいた。
『もっとこの娘と空を感じていたい。』『もっと彼女と空を。』『もっと彼女と───。』
目を閉じ、体に雨粒を感じながらそれだけを思っていた。
どれくらいそうしていたのかは分からない。
初めて感じる明るさに思わず目を開けようとした。
でも、なかなか目は開かない。ゆっくり、ゆっくりと目を開け、空を見上げた。
そこには僕が初めて心から望んだ「空」があった。
「ね。「空」を感じられたでしょ?」
声をかけたときと同じ微笑みを見せて、僕に問いかけた。
僕は何も言わずにただ微笑み返した。そしてそのまま大きく息を吸い込んだ。
──胸の中いっぱいに「空」を感じた僕は、また、ゆっくり、ゆっくりと目を閉じた。

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んーと…雨が降っているんですよ、外で今。
それで「雨が降り続ける町」でも打とうかな、と思いましたらこんなモノに。
自分の意志とは違う方向に物語は進んでいくのですね。
だから物語は面白いのですね(ぇー)