6th「消滅意義 1」。

人が右へ左へ、あたしの目の前を通り過ぎていく。
誰もあたしを知らない。あたしも誰も知らない。そして、誰にも興味などない。
なぜならこの世界に興味がないから──だからこんな世界は消えて欲しい。
でも、それは叶わないこと。
だったらあたし自身が消えればいい。その考えに辿り着くのに時間はかからなかった。
なんとか、っていうデパートの壁に背中をもたれてあたしは人の流れを見ていた。
目を閉じると雑音が否応なしに聞こえてくる。
たくさんの足音。たくさんの話し声。たくさんの息づかい──。
集中すると雑音が波音のように感じてくる。
(この波と一緒にあたしもどっかに流されて消えちゃえば楽なのに。)
いつものようにそんなことを考えていた。
「やぁ、仔猫ちゃん。ボクとどっかに逝っちゃわないかい?」
突然の軽い口調にはっとした。なんなんだろ、この男。
黒いサングラス、全身黒ずくめで、表情はすごく緩い。明らかに怪しい。──ナンパ?
少し周りを見てから「はぁ…。あたしになにか?」と、無難に答えておいた。
すると彼は苦笑しながら「だ・か・ら。ボクと逝かない?消えちゃいたいんだろう?」と、あたしの欲求を口に出していた。
「──っ!?」
びっくりして目を大きく開いてしまった。
「キミの欲求にボクが答えてあげる。…さぁ、消してあげるから一緒においで。」
差し出された手は誰よりも温かそうに見えた。実際は冷たかったんだけど。
あたしは初対面のこの男と「消えるため」に街を歩いた。
彼に導かれるまま、街を歩く。次第に街から遠ざかっていき、見たこともない家──と言うより、寧ろ「館」に近いものに着いた。
知らないところに来た、という恐怖はなかった。
彼があたしを消してくれる。それだけで良かった。でも、誰彼構わずついていく訳ではなかったと思う。
彼だったから、あたしを消してくれると思った。見た目は怪しいけれどあたしに近いものを感じたから。
「じゃあ、中に入ろうか。」彼のサングラスの奥の瞳が光った──気がした。

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初めての続き物…になってしまいました。
ただ、時間がないのと文が長くなってしまいそうだったので区切りがいいとこで中断を。
これは家に向かう途中で思いついたんですよね。
あの「やぁ、仔猫ちゃん〜」というのもその時に(苦笑)
いつも通り当初のイメージとはずれてしまっているんですけどね〜。
なんとか終わりにしたいと思いますです。はい。