7th「消滅意義 2」。

彼は紳士的に扉を開けて、レディ・ファーストであたしを先に入れてくれようとした。
でも、あたしは中に入る直前で立ち止まってしまった。
理由はわからない。ただ中が暗かったからなのか、胡散臭いとここまで来ておいて思ったからなのかは。
「大丈夫だ。キミはここで消してあげるんだから。」
と、そんなあたしを見て彼は優しく声をかけた。
その声に促されるまま、あたしは中に入った。
中は薄暗く、水の香りがした。いわゆる「素敵な照明」って感じの暗さ。
香りの元が中にたくさんある水槽だとわかったのは目が部屋の明るさに順応した頃だった。
水槽は小規模な水族館並にあった。魚の種類なんてわからないけれど、どれも見たことがなかった。
「さぁ…。こっちに来てくれ。」
そう言われるがまま、館のもう少し奥の方へと行くと扉がいくつかあり、その中の一つにあたし達は入った。
今度は逆にまぶしさで目が眩んでしまった。
そこはただただ「白い」部屋だった。
所々に黒い物が置いてあったりはするものの、ほとんどが白い。
かえってこの部屋の白さが彼の服装の黒さを際立てていた。
「さて。そろそろ始めようか。」
部屋の真ん中辺りで彼が言った。
(やっと、この世界から消えることができる…。)
彼の「始める」という単語で少し安心し、口元が緩んだ。
「嬉しそうだね、仔猫ちゃん。」
そういう彼も微笑んでいた。
「えぇ。だって、これからあなたが消してくれるんでしょう?」
「そうだよ。言ったじゃないか。『消してあげる』って。」
彼は微笑みを微塵も崩さないで黒いサングラスを外した。
「──っ!?」
あたしは彼に欲求を当てられたときのように目を大きく開いてしまった。
サングラスに隠されていた瞳は銀色に輝いていた──。

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すみません。時間オーバーでまた続いてしまいました(´・ω・`)
どうにも難産です。こんなものなんでしょうけどね。
でも、こんなものを公開して良いものか…とかも思っちゃうんですけどね。